
研究紹介
言語知識とその更新
言語知識とその更新
アイルランドをフィールドとした、言語の探究。
文法形成、ことばの出会い、言語変化など。
研究内容は(i)~(v)から成ります。(i)の文法研究が基礎にあって、(ii)のような接触言語学的な課題、(iii)~(v)のような社会言語学的な諸課題に取り組んでいます。
(i) アイルランド英語の文法研究
アイルランド英語は「ふつうの英語」とどんなふうに違っているのか。違い(すなわち、現代のアイルランド英語の形態統語的特徴)をいわばエントランスに見立ててそこから体系に迫り、アイルランド英語にとって一番 “エコな” 文法記述を試みる。
関連の書きもの:
『英語という選択ーアイルランドの今』(2016, 岩波書店)第5章「ことばのなかのアイルランドらしさ」
“’Tis…. pattern in Hiberno-English as a grammatical innovation”『東京大学言語学論集 林徹先生記念論文集』, 第39号, 243-263頁, 2018年.
“The do be form in southwest Hiberno-English and its linguistic enquiries”, Festschrift for Professor Hiroshi Kumamoto,『東京大学言語学論集』第33号 熊本裕先生退職記念号, 255-271頁, 2013年.
「アイルランド英語be after V-ingの表現効果―have完了との対立を中心に―」, 『東京大学言語学論集』 第27号, 187-206頁, 2008年.
(iii) アイルランド英語話者の言語意識
アイルランド英語の話者は自分たちの言葉にどんな感覚をもっているのか。調べてみると、「アイルランドらしさ」と「正しさ」が二つの意味ある指標だということがわかってきた。どんな文法形式がどのような評価であるのかの調査に基づく考察。さらにその使用から考えられる言語変化の仮説。
関連の書きもの:
“Speakers’ awareness and the use of do be vs. be after in Hiberno-English”, World Englishes 35 vol 2, 310-323頁, 2016年.
“Morphosyntactic features in flux: Awareness of ‘Irishness’ and ‘Standard’ in Hiberno-English speakers”, Arbeiten aus Anglistik und Amerikanistik 40, 41-65頁, 2015年.
「言語意識の問題ーアイルランド英語の“Irishness”と“Bad Grammar”」, 『東京大学言語学論集』第30号, 215-231頁, 2010年
『英語という選択ーアイルランドの今』(2016, 岩波書店)第4章「話者の言語意識にせまる」
(v) ことばと社会、言語とアイデンティティ研究
<社会>を考察に含めた言語研究の理論と実践、その理論的考察。社会言語学の可能性、言語とアイデンティティの関係はどのように捉えられるかなど。
関連の書きもの(理論、一般):
「言語使用とアイデンティティ構成―社会言語学と現代社会論の交差」社会言語科学 25(2) 9-24, 2023年
「社会言語学の課題—ことばの選択を考える」西山佑司・杉岡洋子 編『ことばの科学—東京言語研究所開設50周年記念セミナー 』開拓社, 97-126頁, 2017年
関連の書きもの(アイルランド関連):
「現代アイルランドの言語アイデンティティ」明海大学大学院応用言語学研究 25 1-17, 2023年
“A survey on language and identity in an Irish context (II): Attitudes towards language shift. Selected Research Papers in Applied Linguistics”, Graduate School of Applied Linguistics, Meikai University 19: 79-105, 2017年
“Non-use, no identity? : The assessment of the ‘non-use’ judgement in ‘Irish markers’ in Hiberno-English”, Celtic Forum 16: 12-23, 2013年
(ii) アイルランド英語の文法形成と言語変化
ケルト語派のアイルランド語とゲルマン語派の英語の言語接触はアイルランドの環境においてどのような言語を生み出したのか。現在のアイルランド英語の形はどのようにして形成され、整えられてきたのか。形成からこれまでの言語環境を踏まえた通時的な考察、今のところ考えている試論の提示。
関連の書きもの:
“Contact-induced grammar formation: A model from a study on Hiberno-English” Frontiers in Communication 7: 832128. DOI 10.3389/fcomm.2022.832128.
『英語という選択ーアイルランドの今』(2016, 岩波書店)第6章「ことばが変わること,替わること」
“Speakers’ awareness and the use of do be vs. be after in Hiberno-English”, World Englishes 35 vol 2, 310-323頁, 2016年
(iv) アイルランド語使用地域(ゲールタハト)における言語使用調査
アイルランドにおいてアイルランド語を第1言語として話す人はとても限られている(1.7%くらい)。その人たちがいるゲールタハトにおいても、だんだん英語が優勢になっている。アイルランド語をめぐる国の政策とゲールタハトに住む人たちの言語使用、アイルランド語保持のためのコミュニティの努力などに関する調査報告。
関連の書きもの:
「ゲールタハト(アイルランド語使用地域)の小学校にみる今日的葛藤−−アイルランドの言語政策とコミュニティ」『東京大学言語学論集 別冊2 学校を通して見る移民コミュニティ』101-108頁, 2018年.
『英語という選択』第2章「ことばを引き継がないという選択」III 現在から未来
『言語接触』「エピローグ この本をまとめるなかで考えていたことなど」
紹介記事はこちら
英語は「自分たちのことば」になりえるか? アイルランド人の言語意識を探る(文:古田ゆかり 写真:水谷充) Researchmap つながるコンテンツ 2017年5月1日
もし日本語が英語に取って替わられたら? アイルランドで起きた言語交替
WEDGE infinity 2017年4月7日